韓国にある、延世大学校医科大学小児精神科教授であり、新村セブランス病院小児精神科の医師でもある申宜真が、ずいぶんと昔になりますが、2004年に「かしこい親の子育て術“ゆっくり子育て”はこんなにすごい」(小学館)という本を日本で発刊しました。この本の内容は、教育熱、早期教育に走る韓国の親たちに警鐘をならしたものとして、韓国・中国で30 万部のベストセラーになりました。
申宜真教授の著書は、小児精神科の専門医としての立場からではなく、二人の子どもを育てている親として執筆されました。そこには子どもを育てる際に、物質的な保障や子どもへの無条件の愛に固執する韓国社会にある独特の雰囲気を想定しつつ、「子どもをどれだけ愛しているかではなく、どのように愛しているか」が重要であると説いています。
韓国人の特性の一つに「せっかち」とか「性急」があると言われていますが、この特性は、育児にも表れます。そこで、申宜真教授は「ゆっくり育てる」という提案をします。それは、子どもを放任するということではなく、過度に発達の先取りをするという雰囲気に惑わされることなく、子どもの成長段階、発達段階に会わせた育て方をしようと呼びかけたものです。そのために、子どもの発達段階に即した思考力が育っているがどうかが最重要であるとして、「one step behind」と「one step ahead」の子育て戦略を提唱しているのです。「one step behind」とは、「一呼吸おいてから対応する方法」で、「子どものなすがままを見守り、何かに好奇心を示したときに親がそっと後押しすればよい」という考えです。
一方、「one step ahead」とは、子どもの気持ちを先回りして理解、共感することです。この「one step behind」という考え方は、昔からある日本の言葉の「見守る」に通じるものがあります。その考え方は、日本の近代以前の時期の子育ての特徴であり、柳田國男のいう「児やらい(コヤライ)」の思想と同じであると言われています。それは、「突き放すのではなく、一歩後ろから見守りながら、子どもの自然な性向に従って発達を促す、子ども主導とおとな援助の姿勢を示す教育方法である」と説明されているようです。
どんなに時代が変わっても、変えてはいけないものがあるのですね。一歩下がり、我が子の姿をしっかりと見守っていきたいですね。
「韓国の子育て」
2017.11.11