「日本人のひるめし」の著者である酒井さんは、こう振り返ります。「かつては主婦の家事労働は所得としての価値はほとんど認められておらず、主婦は支出を節約するためには家事労働をいとわないのが一般的な風潮でした。生活意識の変化とともに、家事労働から解放されるためには、現金を支出するのは当たり前という考えが生まれ、大多数の主婦に共通する意識として定着してきている。」かつて家事として行ってきたもので、最近は現金で購入するものとして、沢庵や白菜漬け、梅干しなどの漬物、サバのみそ煮やきんぴらごぼうなど、おふくろの味と称される惣菜までも出来合いを買う人が増えていると言います。この他にも、ただ温めるだけ、揚げるだけ、といった具合にあまり調理を必要としないインスタント食品や冷凍食品、さらにはレトルト食品なども着実に食生活の中に入り込み、主婦がこれらを使う機会も間違いなく増えていると言います。現在では、家計の食糧消費の50%以上を加工食品が占めるようになってきたそうです。
もう一つは、社会の側が用意した食卓ともいえる外食産業で食事をする回数が年々増えてきていることです。内閣府で行ったちょっと前の調査ですが「食育に関する意識調査」によると、外食をする頻度は、男女ともに「月に数日」と答えた人の割合が最も高く、男性で36.6%、女性で44.1%である。性別・年齢別にみると、男女ともに、年齢が高くなるにつれて「ほとんどない」と答えた人の割合が高いようです。毎日外食と答えた人の年齢層は、面白いのですが、20~29歳では5.7%であるのに対して、30~39歳では1.8%に減ってくるものの、40~49歳になると、5.6%に一気に増えます。この年齢では、子どもが思春期の頃、父親とほとんど食事をしない割合ともいえます。
この外食の増加には、家庭の問題だけでなく、外食産業の目覚ましい発展があります。ファーストフード、ファミリーレストランだけでなく、最近は、誰でも気軽に、安く、いろいろな種類を食べることができます。また、コンビニや、デパ地下なども充実し、ますます、家庭での食事は、きれいに盛り付けることとおいしく食べることだけへ、つまり食事行動のプロセスの中の楽しい部分だけに特化されてつつあります。それは、最近のお弁当を見ても同様なことが言えます。手づくりのように見えて、中身はほとんど冷凍か家庭外で作られたものを詰めることが多くなり、盛り付けを楽しむという部分だけを家庭内で行うようになってきています。
このように、社会への依存度が大きくなれば、家庭内の仕事は当然減り、余暇の時間が増えてきます。主婦の義務であった料理を男女をとわず多くの人が参加できる趣味となる可能性が高いと酒井さんは言います。つまり、日常の食事はインスタントものなどの加工食品にちょっと手を加えるだけで済ませ、あるいはてんやものや持ち帰り弁当なども含めた外食で済ませておき、ときどき家族がそろうときにおおごちそうを作るといったことが、近い将来の食事の姿について描けるのではないだろうかと酒井さんは言っています。
そうして、こう提案しています。「休日の昼食には家族そろって庭や郊外でバーベキューを楽しんだり、親子が力を合わせて昼のご馳走を作ったり、あるいは日頃家庭サービスの十分でない父親が家族のために腕を振るったり、昼食はこのような要素を取り込んだ食事という側面を持つようになるであろう。昼食時に家族全員がそろって共食をすることによって、薄れつつあった家族の連帯感を取り戻すための格好の機会となるのではなかろうか。」と言っています。
このような指摘、皆さんはどう考えますか?
「食から見る家族の形」
2016.12.10