少し前から、脳科学での解明が教育分野においても影響を与え、いろいろな解釈が生まれました。しかし、脳科学は、必ずしもすべてが解明されたわけでもなく、また、人間の行動はもっと複雑であり、もっと深いものであるのです。しかし、それが少し変わってきました。以前、脳科学というと脳の機能的メカニズムを解明する段階でした。それが、最近は、人間の知性の本質を探究する道へと変わってきたのです。それは、「ミラーニューロン」という画期的な発見があったからです。
脳には男女差があり、茂木さんの著作「化粧する脳」での説明にはこうあります。「女性は共感能力に関して高い傾向がある。」と言います。もちろん個体差があるので、すべてに当てはまるわけではなく、おおむねそのような傾向にあるということのようですが。「一般的には、女性の方が人間関係やコミュニケーションに依拠した行動をとることが多く、したがって共感能力や周囲に対する同調能力が高いと考えられている。その意味で、女性はどちらかといえば自分自身の価値基準や独断で世の中を歩こうとするというより、周りの人と同調し、また自分がどう見られているかという他者の視線を自己の成り立ちに反映させることを大事にしながら、社会と折り合いをつけて生きていこうとしている。」と言っています。
一方、男性はどうかというと、「抽象的、論理的思考が強く、システムを分析、検討し、そのパターンを支配する隠れた規則を探り出そうとする衝動、システムを構築しようとする傾向にあるという研究もある。」この内容については、サイモン・バロン著の「共感する女脳、システム化する男脳」に取り上げられているようです。
では、共感するということはどういうことなのでしょうか。「共感」とは、まず提示された周囲の状況に対して内的な体験(感情)を認知し、表情や会話などを通してコミュニケーションを図ろうとする(情動)ので、感情と情動という、二つの体験過程の総合的な事態であると思われています。しかし、このように共感するということの説明は、脳科学では難しいのですが、たとえば、人が他者の立場に立ってものごとを考えたり,理解したりすることができるようになるということとすると、そのようなことは、人間はいつからできるのでしょうか。
そこで、ミラーニューロンの働きを考えます。この部位は、その名前が示唆するように、自分の行為と他人の行為を鏡に映したように表現することに関係します。例えば、自分が手を伸ばして何かを掴む時にも、他人が同じ行為をするのを見ている時にも活動するのです。このミラーニューロンが注目されるのは、それが、「他人の心を読み取る」という脳の大切な機能を支えているのではないかと推測されるからです。人間の本質は、他人とコミュニケーションをする社会的知性に顕れます。ミラーニューロンは、他人と柔軟にコミュニケーションする人間の驚くべき能力を支えていると考えられているのです。
「個と集団は両立するのか」という課題に答えるとすると、個性の発揮と他人との協調が相容れないとするのは、脳科学の視点から見れば間違いなのです。ミラーニューロンの発見に象徴されるように、個性は、むしろ他人との関係性においてこそ磨かれるものなのです。他人の心という鏡に映った姿を通して、私たちは自分の本性を知るのです。
ミラーニューロンの働き
2012.02.15