乳幼児教育

発達の順序性

2012.11.17

 乳幼児教育においてとても大切なことは「発達」を促し、助長することであることは周知のことですが、発達といってもよくわからないことがあります。それは、人間は、他の生き物に比べて非常に複雑であり、その複雑さを人間の力だけで解明できるはずはないからです。しかし、人間は、その複雑さをきちんと整理しながら、いろいろなことを獲得していきます。その獲得していく過程において、何が助長し、促すのか、また、人間は、自分にとって必要なものを複雑の中から何を選択していくのでしょうか。古い時代には、発達は遺伝的要因にその大部分を依存する過程と考えられていて、遺伝的に潜在している可能性が時間の経過に従って次々に開花してくる事を発達と呼んでいました。いわゆる、いくら教育したって、生まれつきなので仕方ないと思われることが大部分を占めていたのです。しかし、現代においては遺伝的要因と同等に環境的要因が重視されていて、機能的発展以外にも人格の成熟や知性の発達といった観点を合わせて生涯にわたっての発達が考えられています。
 また、発達は、必ずしも成人期にいたるまで右肩上がりで直線的にしていくものではなく、成人期までの変化の中でも、一時的な発達の停滞や表層的な逆行が見られることがあるといわれています。また、逆に成人期以降の変化でも生物学的な加齢と並行して発達の下降や衰退が必ず起こるとは断言できない部分があります。その為、発達には従来の「上昇・下降」といった価値判断を含まない事になり、一生の間の変化として発達を考えるようになりました。即ち、小さい子どもは、最初は未発達で、次第に発達していき、いろいろなことができるようになるという考え方ではなくなったのです。ですから、人間は、一生の間にどのようにいろいろな部分が変化しているのかという「生涯発達」という観点が必要になってきているのです。
 この「生涯発達」という観点からそれぞれの年齢における行動、行為は、生涯にわたって影響を及ぼすことがあり、赤ちゃんから、その時期々に振り分けられた、その時期に現れる行為を十分に行うことができるようにすることが「発達の援助」であり、その後の「発達を助長」することになるのです。それは、発達にはいくつかの特徴があり、留意点があります。
 一生を通して連続的に進行する変化の過程としてみたときに、その進む速さは一定ではなく個人差がありますが、発達は一定の規則・型に従って進んでいきます。発達のスピードの差が生まれる原因としては、遺伝的な個人差があり、性差があり、発達過程の環境などがあります。しかし、どんなに個人差があっても、「発達の順序性」という発達の規則があり、発達は一定の決まった順序で進行していきます。たとえば、シャーレイという人の研究では、人間の乳児期の発達で順序性を考えると、「胎児姿勢→あごを上げる→肩を上げる→支えて座れる→膝に座ってモノを掴める→椅子に座る→一人で座る→支えてもらって立つ→家具に掴まって立つ→ハイハイする→手を引かれて歩く→家具に掴まって立つ→階段をハイハイで上がる→一人で立つ→一人で歩く」というように、発達を順番通りに経過していくことになります。この発達の順序性の順序が乱れたり、飛躍したりする場合には、発達上の何らかの問題や異常がある場合が考えられます。しかし、それぞれの発達が、生後何ヶ月児に起こるのかという発現の速度には個人差がありますので、おおむね何歳はどんな発達過程にあるのかということはあまり意味がなく、かえって、その年齢における目標になりかねません。また、その基準よりもわが子は早いというような早期教育に走ることも問題になります。
 発達は連続的に、しかも、順序を飛び越すこともなく進んでいきます。だからこそ、関わる大人が個々の発達をしっかりと見ながら、丁寧に関わる必要があります。その時の一瞬一瞬を大切に関わりながら、子ども自身が成長しようとする姿を、周りの大人が見守っていかなくてはならないのですね。

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