「昨日までの世界―文明の源流と人類の未来」の著作であるジャレド・ダイアモンド氏は、とても興味のあるところに注目しています。それは、父母以外の人間が、子どもの面倒を見る頻度はどのくらいあるかという調査です。現代の社会において母親、父親の育児分担はとても増え、最近の問題として、保育園に子どもを預けることを含めて、親以外の他人の育児参加を伝統的社会ではどのように行ってきたのか、それは、子どもにとってどのような意味を持ってきたのかを調べることは、とても意味あることのように思います。
狩猟採集民の小規模血縁集団では、赤ん坊が生まれて1時間も経たないうちに、その子のアロペアレンティングが始まるそうです。このアロペアレンティングとは、代理養育と呼ばれ、生物学的な親以外の人間が子どもの世話をやいたり、面倒をみたりする養育スタイルのことを言います。このような養育は、人類が誕生したころからも、小さな貝殻を遺跡から発掘した時にも、それは、赤ちゃんをみんなで養育する証であることではないかと考えられています。同様に、アカ・ピグミー族やエフェ・ピグミー族は、生まれたばかりの赤ん坊が、焚き火の周りでグルグルと人のあいだを手渡しで回され、大人たちも年長の子どもたちも、みな同じように、赤ん坊を手渡しし、ほおずりをしてみたり、そっとゆすってみたり、歌を歌って聞かせてみたり、理解できるはずもないのに言葉をかけてみたりするそうです。確か、NHKヒューマンでは、アフリカのクン族では、そのように赤ちゃんを手渡しながら首に首飾りを下げてあげます。発掘された貝殻はそのように使われたのではないかと思われているのです。]赤ん坊が手渡しされる平均回数を実際に数えた人類学者の報告では、エフェ・ピグミー族とアカ・ピグミー族の赤ん坊の場合、一時間に平均八回いろいろな人に手渡されていたそうです。
また、狩猟採集民のあいだでは、赤ん坊の世話が共同作業になっていて、母親と父親や親代わりの大人とが育児を分担していたようです。それは、父親や親代わりの大人とは、たとえば祖父母、おば、大おば、他の村人、年長の兄弟といった人たちです。これに関しても、人類学者が実際に人数を数えてみると、数時間という観察時間のあいだに、アカ・ピグミー族の赤ん坊は7,8人に面倒をみてもらっており、エフェ・ピグミー族の生後四カ月の赤ん坊は14人に面倒をみてもらっていたそうです。そして、この面倒を見た仲間のことを「家族」といったのです。この調査報告は、他の報告とも合致します。また、人類の生理学的特徴が裏付けます。特にその時に大きな役目を担ったのが、祖父母です。ジャレド氏も、狩猟採集社会では、父母と一緒に、乳幼児が食料の調達に同行することはあまりないので、赤ん坊や幼児は祖父母と一緒に野営地に残り、父母が心おきなく食料探しに専心できるようにしているといます。そして、父母が出かけている間は、農耕民族と違って、夜になったら帰ってくるというわけではなく、数日の場合もあれば、数週間にわたる場合もあったようです。
親、特に母親から離れて育児された子はどうかというと、こんなデータがあります。子どもの体重増加をみると、東アフリカのハヅァ族では、祖母が子どもの身の回りの世話などをしている場合と、そうでない場合とでは、祖母が養育に関与している子どものほうが体重増加のペースが速いそうです。
このように、いつの時代にも子育てはたくさんの人を介して行われてきました。それは日本に関しても同じです。田畑を耕しながら、家族や親せき、近所の方も一緒になって子育てを行ってきました。このような伝統的な子育てが出来なくなってきた現代は、やはり保育園を上手に活用し、子ども達の育ちをみんなで保障していく必要があります。決して小さいうちから預けることはかわいそうな事ではなく、「3歳までは家庭で・・・」と言われていたのがなぜなのかと言うことが疑問に思います。昔から、多くの人によって育てられた子ども達はたくましく育ちます。保育園では、多くの先生との関わりがあり、初めての社会を経験できます。
どうか、子どもと一緒にいられる時間を大切にしながら、子ども達の育ちを共に支えていきましょう。
父母以外の養育者
2014.04.15