ミシェルは研究の中で三つのシナリオを考えました。「厳しい基準」のシナリオでは、モデルは自分自身に厳しくし、子どもにも同様に厳しくしました。彼女は、自分のスコアが20点という、とても高いときだけチップを取り、「これは良いスコアだわ。これなら、チップを一つもらってもいいわね」とか「このスコアは自慢できるわ。自分にご褒美をあげなくちゃ」というように、自分を褒める言葉を述べました。スコアが20点に満たない場合はいつも、チップをもらうのを控えて、「あまり良いスコアではないわね。これでは、チップはもらえないわ」というような自分への批判を口にしました。彼女は、子どもの成績もまったく同様に扱い、高いスコアの時には褒め、低いスコアの時には批判的でした。
「モデルに厳しく、子どもに甘い」シナリオでは、モデルは自分自身には厳しいが、子どもには寛大で、子どもには、スコアが低くても自分にご褒美を与えるように仕向けました。「モデルに甘く、子どもに厳しい」シナリオでは、女性は自分自身には寛大で、子どもには最高点の時だけ自分にご褒美を与えさせる厳しい基準を置きました。
これらの条件下で行なわれた実験のどれかに子どもたちを参加させたあと、チップを自由に取れる状態にして置くという条件は変えずに事後テストを行ない、子ども一人だけでプレイしたときの、自発的な自己報酬の行動をこっそりミシェルは観察しました。自分にも子どもにも厳しかったモデルから学んだ子どもは、最も厳しい基準を採用しました。この条件では、モデルは子どもが最高のスコアの時だけ自分にご褒美を与えるように促し、同じ基準を自分自身にも課しました。モデルが自分に採用した基準と、子どもに強いた基準に一貫性がある場合、基準が厳しく、ご褒美は望ましいものだったにもかかわらずモデルが不在でも子どもたちは一度として逸脱せずに、その基準を採用しました。モデルが絶大な力を持ち、とても望ましいご褒美や報酬を管理していると子どもが思っているときにはとくにこの結果がはっきりと出ることも、この研究から明らかになったそうです。
自分に甘くするよう促された子どもたちは、モデルが自分自身に厳しかったのを見ていても、事後テストで子どもだけになったとき、自分に甘かったそうです。ゲーム中、自分自身には甘いのに、厳しい自己報酬の基準を押しつけてくるモデルから学んだ子どものグループでは、半数が教えられた厳しい基準を守り続け、残る半数は、モデルが自分自身に採用しているのを見た甘い基準を使ったそうです。
自分の子どもにも厳しい自己報酬の基準を採用させたいのなら、この基準を採用するように子どもを導くのと同時に、自分の行動でもその基準を手本にするのがいいことが、この研究から窺われるとミシェルは言っています。大人に一貫性がなく、子どもに厳しいのに自分には甘い場合、子どもは押しつけられた基準ではなく、大人が採用していた自己報酬の基準を使う可能性が高いという結果が出たのです。
この研究はとても興味深いですね。また、保護者に対してや保育において参考になります。子どもに厳しい基準を自ら課すことをさせたいのなら、きつく言うとか、強要させるよりも、自分の行動でもその基準を手本にすることが必要だというのです。自分だけ甘くして、子どもに厳しくても、決して子どもには伝わらないのです。まず、我が身からですね。
「自分に厳しく」
2017.09.15