「〇〇くんここ空いてるよ」。
今年度の4月からずっとるんるん組での朝の会では、横一列に壁側に並んでいました。
後から並びにきた子が入れるように、「〇〇くん、ここ空いてるよ」と朝の会が始まる前にはこの言葉が飛び交うのです。幼児組に移行してからは縦一列に並ぶので、この声はしばらく聞こえませんでしたが、なんだか今日は久しぶりに聞いたような気がします。それは、運動遊びをしたある日のこと。
幼児クラスに移行して初めての運動遊び。今日は鉄棒です。お友達が鉄棒をしている様子が見えるよう、みんなで壁に沿って横一列に並ぶことにしました。
後から来たBくんはズラッと並んでいるお友達を見てどこに座ったらいいか、困った様子で立ち止まりました。すると「〇〇くん、ここ空いてるよ」すでにギュウギュウでしたが、Aちゃんの一声で周りに座る子が少しずつずれて、なんとか1人分空き、全員が座ることができました。ただやはり少し狭い様子。保育者が「狭くて見づらいから、何人かこっちの壁にも座っていいよ」と声をかけようとした時。。。
ドン!AちゃんとBくんが肩で押し合いを始めてしまいました。「せまい!!」「おさないで!!」Aちゃんがそう言うと、Bくんはムッとした表情に。スッと立ち上がってどこかへ行ってしまいました。
Aちゃんは少し困った様子。「せんせい、BくんがAちゃんのこと押した…」。でもそう訴えてくる表情はムカムカ怒っているのではなく、Bくんの様子をチラチラと見て少し気にしている様子です。せっかく隣に誘うことができたのに…押されて嫌だった…でも強く言ったからBくんがどこかに行っちゃった…と様々な気持ちが頭の中をぐるぐるとしているようです。
「Aちゃんも押しちゃったなら、まずはAちゃんから謝ってみるのはどう?」と声をかけると、Bくんのところへ向かって、「押しちゃってごめんね」と伝えにいきました。
Bくんはどう返すのでしょう。僕もごめんねと謝るのでしょうか、それとも拗ねて話を聞いてくれないのでしょうか、はたまた押されて痛かったと伝えるのでしょうか。Aちゃんと同じく私もBくんの反応をドキドキしながら見守っていました。すると、
「え、先に押したの僕じゃないの??」と一言。
「え?」Aちゃんは驚いた後、
「あ!みてみてなんか壁が剥がれてる〜」と続けました。
「ほんとだ〜」そう笑い合うと、2人はすんなりまた並びに戻ってきました。
たった少しのすれ違い。仲直りはとても呆気ないものでしたが、 AちゃんもBくんも、悪いことをしてしまったと思っていたのは一緒だった、押されて嫌なのも一緒だった、ということに気がついたようです。
相手がどのように今感じていて、どのように考えているのか、わからなくて不安だったAちゃん。でも話してみると、相手がどんな思いなのか知ることができる、ということを学ぶことができたようです。
きっとBくんもお友達のことを押しちゃった…ムキになっちゃった…といろんな気持ちがぐるぐるしていたと思います。そこでAちゃんの素直な気持ちを聞いて、素直に思っていることを伝えることができました。
もし相手とすれ違って喧嘩になってしまったのなら、もういいやと話し合うことを諦めるのでもなく、「ごめんね」「いいよ」と言葉を交わすだけでもなく、自分が思ったことや感じたことを言葉にし、ぜひ相手がどんな思いを抱いていたのか知る機会にしてほしいと思います。
そして何よりどうしたら相手との関係を戻すことができるのか考える機会にしてほしいと思います。
今回は「壁が剥がれてる〜」とまさか私たち大人では思いつかないような、同じものに共感を寄せるという方法で関係を築き上げていました。子どもの柔軟さにはいつも驚かされるばかりです。「壁が剥がれてる〜」と言ったAちゃんも、決して壁が剥がれていることが面白かったわけではないでしょうし、その話題にBくんも特別面白さを感じたわけでもないかもしれません。
でもAちゃんが振ってくれた話に、Bくんが乗ってみる。こうしたささやかな気持ちのリンクで関係が元通りになるのです。相手の細やかな気持ちの変化を汲み取ることを、ぜひ集団生活の中でたくさん学んでほしいと思います。
子どもにはわかる子ども同士の波長や子どもの世界を大切にしながら、今後も見守っていきたいです。
池田